Vol.08「甲子園サブレ・誕生ストーリー」

先日、ある常連客の T さんにこんなこと言われました。

「知らんかったわ〜。甲子園サブレの【サブレ】って、フランス語で【砂】って意味やったんやってぇ?」。

私はビックリました。

「甲子園サブレ」と言えば、30 年以上売れ続けている、ベルンの代名詞とも言えるロングセラー商品です。

「知らなかったんですか、T さん。『砂』って意味だから、甲子園からの贈り物、お土産としてピッタリなんじゃないですかぁ。」って答えた後、やっと気づいたんです。

「全然、伝わっていない…」

あの常連の T さんが知らなかったってことは、多分ほとんどの方が「知らない」…

「我々パティシエが、お菓子を作るときに想う『意味』や伝えたい『メッセージ』は、キチンと説明しなきゃ、お客様には伝わらない…」

そう気づいて、誕生ストーリーのページを作りました。

今まで 40年の間で生まれた、数え切れないほどの「おかしのストーリー」。

ここでは、ほんの一部ですが、ご紹介したいと思います。

「甲子園サブレ」は、生地に練りこんであるローストしたアーモンドが香ばしい、いたってシンプルな焼き菓子です。

昭和52年、第19回全国菓子大博覧会【静岡】で「金賞」を受賞し、当時ものすごくよく売れました。

でも実はもう一つ、隠れた「売れる理由」があって、それは…

「本物の【甲子園の土】が、中に入っています」

厳しい練習に耐え、やっとの思いで甲子園出場を果たせたといっても、ベンチに入れる選手はたった18人。毎年スタンドには、その何倍もの選手達が大声で応援しています。

例えベンチに入れなかったとしても、「甲子園出場」は、彼ら19番目の選手にとっても、生涯忘れることのできない大切な思い出。彼らにも「甲子園の土」を持って帰らせてあげたい…。

アイデアマンの父が思いついたのが、本物の【甲子園の土】が入った「お守り」を入れること。そう考えて、父はすぐに行動にうつしました。

球場関係者の方に何度も会いに行き、その主旨を説明し、頼み込んで「砂」を分けてもらえるようになりました。

小さかった私も、父に連れられて何度か球場まで「砂」を取りにいったことがあります。忙しい父や母、スタッフさんに混じって、店の裏でせっせと「お守り」作りをよく手伝ったものです。

約2cm×4cmぐらいの小さなビニール袋に、「砂」を少し入れ、封をしてから紙で包んで「お守り」を作る。

正真正銘、本物の「甲子園の砂」入りの「甲子園サブレ」。
これがもの凄く人気を呼びました。その噂は瞬く間に口コミで広がり、大ヒット商品となりました。 しかし、世の中そう甘くはありません。

あまりの人気で目立ちすぎたのか、他のお店の方々も、「砂」を分けてくれって頼みに行くようになってしまいました。

「収集がつかなくなるから、ベルンさんだけに供給するわけにはいかない」ってことで、「NG」の返事が返ってきて、「砂のお守り」はかなり昔に幻のものへ…。

現在は、「お守り」はついていませんが、「甲子園サブレ」は30年以上たった今も尚、売れ続けているベルンのロングセラー商品です。

年々販売枚数が増加しているのは、手頃の価格と変わらぬ味わい(想い?)が評価されているからでしょうか。

地元甲子園では、ちょっと有名なヒット商品、それが「甲子園サブレ」です。

「甲子園」と言えば、阪神タイガースの本拠地ですから、確かにワイワイ元気な「六甲おろし」のイメージが一番強いのかもしれません。
でも実は、すごく閑静な住宅地(文教地区)でもあるってことは、全国的にはあまり知られていないようです。

甲子園のある西宮は、ちょうど大阪と神戸のど真ん中。

オモロイ文化と、洒落た文化のまじわりどころ。
海も山もあり、花も緑もある…
笑いあり涙あり、夢とロマンが集まる町…


こんなに楽しく、住みやすい町は、他にないと私は思っています。
生まれも育ちも「宮っ子」の一人として、我がふるさと「西宮」らしいお菓子を、これからも作り続けていきたいと思います。

  Vol.08「甲子園サブレ・誕生ストーリー」